フィンチのお気持ち表明板

ブログと日記の狭間

8月25日

 しばらく日記をご無沙汰していたけど、今日はせっかくの誕生日だし、ほんの少しの間せわしない日常からちょっぴり距離を置いて、よしなし事をそこはかとなく書きつくる時間を作ってみようと思う。

 

 将来これを読み返している自分のために、念のために記しておくと、今日は令和2年の8月25日。大学2年が終わった年の夏休みの真っ最中だ。今年の夏は、千葉の家と東京の実家を行き来する生活をしている。これを書いている今は、千葉にいて、家の近くの涼しいカフェで、アイスコーヒーをお供にノートPCに向かっている。

 

 コーヒーの前にたいらげたキーマカレーがお腹を程よく満たしていて、ただでさえ寝不足の頭が、さらにボーっとする。アイスコーヒーは少し薄めかもしれない。この後は帰って、冷房の効いた畳の部屋で昼寝でもしようかな。

 

 何も予定のない、幸せな空白の午後。誕生日の日くらい、罪悪感を感じずに、そんなまどろむような時間の流れにぼんやりと包まれていたっていいだろう。

 

 …あぁ、やっぱり、今日はダメだな。麻酔のような心地よい空白が頭に靄をかける。思考停止。まで行かずとも、最徐行。からっぽな午後に、頭はからっぽ、それからベージュのバッグに入った水色のお財布も、からっぽ。でも、それら全てに、満たされた気持ちがする。

 

 昨日、日の入りも近い成田の街並みをバスの車窓から眺めていたとき、隣に彼の気配を感じながら、密かに思った。こんなふうに自分が同い年の異性とこの土地でデートしていることを知ったら、きっとおじいちゃんは喜ぶだろうなぁ、って。

 

 今は空き家になっている千葉の家は、それでも、祖父母がそこを去ってから、まだ一年と経っていない。おばあちゃんのピアノの部屋だって、おじいちゃんの書斎だって、まだそのままだ。この前、書斎の本棚の上、教え子に囲まれて笑っているおじいちゃんの写真を見て、ふと思った。子供の頃から、自分の幸せは、おじいちゃんや沢山の大人たちに守ってきてもらったものなのだと。そしてこれからは、その幸せを、自分で守っていかなくてはならない、と。それがきっと、自分にできる一番の恩返しだろう。

 

 だから昨日、普通の日本の大学生がするみたいに、夕方誰か素敵な人と駅前で待ち合わせして、そのあとレストランやバーへ行って、店内の薄明りのもとで色々な話をしたことが、本当に嬉しかった。あの時自分は、昔おじいちゃんとも訪れた成田の地で、人並みに二十代らしい幸せな一時を過ごしていて、それで小さく、恩を返せているような気がしたから。

 

 もう10年くらい前のこと、中学生だったときは、あまり学校へ行かずによく千葉の家に甘えに来ていたけれど、祖父の車で通った図書館で借りた小説の登場人物を友達にしていたような、あの時のひどく自閉的な少女だった過去の自分を思えば、なおさらのことだ。

 

 中学を卒業してからも、周りの同い年の他の子たちの大多数とは、少しズレた生き方をしてきた。そして気がついたらヨーロッパにいて、そこでの生活は楽しいけれど、それでも心のどこかで、自分にはもう日本での二十代の青春は手に入らないのだろうということを、惜しく感じている節があった。自分はやっぱり日本人としてはズレたままなんだと思って、ちょっと寂しかった。

 

 それでも、昨晩は、バーで近くの席の学生の子たちが酔っぱらって騒いでいるのにちょっと呆れたりしながら、いつでも外側から眺めていた日本の同年代の子たちの輪の中に、自分もいるような気がしていた。不思議な心地がした。それでやっぱり、幸せだった。

 

 それだけでも十分だったのに、どうやら成田の駅前で待ち合わせをしたその人は、昨日さよならを言ったとき、なんだか自分の交際相手になっていたみたい。正直まだ、あんまり実感がわかないかな。今後どうなっていくのかは全くの未知数だけれど、試してみなくちゃ何も分からないし始まらない。お互いに好意を持っているのなら、そこにある可能性を模索していくのは、普通のことだと思う。

 

 まぁ実は初めての彼氏なので、そんなわけで昨日はドキドキして眠れなかった。そうして迎えた誕生日。まだぼんやりと、夢心地のような感じする。ちょうどよい音量のカフェのご機嫌なBGMが、頭にふわふわの真綿を詰めるみたい。外からはセミの鳴き声。グーグルマップ曰く、このカフェに最後に来たのは、3年前だそうだ。おじいちゃんとおばあちゃんと一緒に来たのを、憶えている。あぁ、あれから、長いような短いような年月が過ぎた。私は、自分の人生や、そこで出会う人たちに対して、誠実でいられるかな。そして、自分の幸せを、守っていけるかな。

 

 これは追記だけれど、もし昨日の交際の申し出が、ただの酔った勢いの気の迷いだったのなら、早めに申告してほしいかな。べつに、怒らないから‥。